洋梨とバックロールエントリー

敏宮凌一(旧ペンネーム・敏宮龍一)によるブログ。

『ある山下テツローの場合』→第7話

第7話:束の間の現実逃避、火消しに追われた日、ギョーザ・ブルース?

 彼の遺品のUSBフラッシュメモリ内「2008」フォルダから「200802」より。ブログ掲載の都合上、一部自主規制あり。

02/18/08(2008年2月18日)

2008年2月18日の彼

©2021 Ryoichi Satomiya

この日は休み。パートナーと朝食を取る。
朝から無性に現実逃避したくなってしまい、通勤電車に乗って中野へ行く。

中野駅に着くが、晴れていても外は寒い。
中野駅)北口から出て、そのまま歩いて商店街を通り抜けて、中野ブロードウェイに着く。だが、まだ多くの店は開店準備をしている。久しぶりに*14階にある弁当屋へ行って100円のナポリタンを買おうとしたが、昼飯時でもないのに、この日の分のナポリタンは既に完売していた。迷った末に、ナポリタンが添えられたハンバーグの弁当を1つ買う。弁当を買うと、そのまま1階まで下りる。1階まで下りると、買った弁当の処理のためにブロードウェイ近くの公園へ移動した。

公園からブロードウェイに戻ると、*2まんだらけ」の本店や系列店が集中している階へ行く。
途中に観たショーウィンドウの中には、額に入った*3横尾忠則が手掛けたポスター、*4蛭子能収のイラストの*5リトグラフ*6大友克洋が描いた*7『YOU』のイラストのパネルのような物が飾られていた。しかし値段を観ると、どれもギョッとするほどの高額だった。さすが「まんだらけ」・・・。
次にアイドルグッズショップへ行って、*8ビックリハウス』やYMOが載っている昔の雑誌とYMOや昭和の邦画のポスターなどを観る。その後、ゲーセンで格闘ゲームをやっている人を覗き見るが、僕の頃よりもゲーム機のボタンが多くなったような気がした。

午後1時過ぎ。
ブロードウェイを出て、商店街を通り抜けて、駅へ戻って新宿に(パチンコを)打ちに行こうとしたその時、僕の携帯電話に会社の上司から「お休みのところ申し訳ないが、今日の(自社)ホールでの葬儀の1つで、参列者が想定していた以上に来ているので、応援に来てもらえないか」という電話が来る。僕は、偶然来た「高尾(駅)」行きの特快列車へ飛び乗って、立川へ戻った。
束の間の現実逃避だった・・・。

02/19/08(2008年2月19日)
この日は日勤。パートナーと朝食を取る。
「ネットで会社のページを見て電話した」という電話が集中。僕は、ある男性(小学生か中学生?)から携帯電話で葬儀費用の相談を受ける。3分くらい相談の後に「検討させていただきます」と電話終了。
それから10分くらいして、この男性の親族という人から火葬式の依頼電話が来た。なんでも、この男性の両親が5時間前に亡くなったのだという。
この日、僕が受けたちゃんとした依頼はこの1件で、残りは大量の「検討させていただきます」だった。

夜。
パートナーから、いつ理容室へ行くかと訊かれる。僕は「今月はスケジュール的に無理」と答える。

02/20/08(2008年2月20日
この日は日勤。パートナーと朝食を取る。
朝から、あるテレビの情報番組で、住宅街や小中学校の通学路に、*9遺体ホテルや遺体マンションが建てられようとしていることに反対運動をしている住民のグループがいるというのが放送された影響で、大量の「遺体と共に出ていけ」や「小・中学生の精神に悪影響が出る」などという苦情や抗議っぽい内容のメールや電話の処理に、ほかの社員と一緒に苦戦してしまい、この日は仕事にならなかった。ここ(彼がいる会社。)は関係ないのに・・・。

02/21/08(2008年2月21日)
この日は日勤。パートナーと朝食を取る。
この日も昨日のテレビ番組のせいで、苦情や抗議っぽい内容のメールや電話の処理に追われる。この日に葬儀がある社員やアルバイトを守るための盾と波消しブロックとしての務めを果たせるように頑張っていた・・・と思う。

夜。
テレビのニュースで、*10ロス疑惑の人が逮捕されたというのが報じられていた。ロス疑惑だなんて、何年振りに聞いただろう・・・。

02/22/08(2008年2月22日)

2008年2月22日の彼

©2021 Ryoichi Satomiya

この日は夜勤。
僕にとって、腰痛がまるで*11竹馬の友のようになっている。
ブランチにパートナーのママレードを食べようと冷蔵庫を探すが見つからない。冷蔵庫のドアを閉めた直後に台所のシンクを観ると、空のジャムビンがあった。どうも、パートナーが朝食で食べたようだ。今日もアイツは(会社に)出掛けたか・・・。

夕方。
会社の最寄りのバス停の近くで、無言でプラカード(夕暮れ時のせいか、僕の老眼のせいなのか、何が書いているのか読めなかった。)を持って立っている人が一人いる。
この日は葬儀の相談電話・5件、書類の整理、火葬待ちのために預かっている亡くなった人の状態確認などをした。

02/23/08(2008年2月23日)
この日は夜勤。
この日の夕暮れ時にも、会社の最寄りのバス停の近くで無言でプラカードを持って立っている人が一人いた・・・。

22時過ぎ。
「ネットでうちの会社のページを見て電話した」という、年老いた男性から「自殺した妻の葬儀を頼みたい」という電話を受ける。僕はその人に、警察署でもらってきて欲しい書類について説明をするが、耳が遠いのか、この時の僕が出せる最大の大声で何度か説明をして、一度電話を切った。疲れた・・・。自分もいずれはこの男性のようになる時が来るのだろう。
でも、この人の電話の内容は、僕にとっては赤の他人なのに、“自殺した妻”なんてワードを聴いたせいか、何だか切なく思った。

02/24/08(2008年2月24日)
この日は休み。この日休みだったパートナーと朝食を取る。
ひと通りの掃除と洗濯を済ますと、昨日、中央図書館で借りてきた*12『茄子 アンダルシアの夏』と*13『茄子 スーツケースの渡り鳥』と*14シベリア超特急3』のDVDをパートナーと観る。
『茄子』2作までは一緒に観ていたが、『シベリア超特急3』を観ている最中に、パートナーが爆睡していることに気付く・・・。
シベリア超特急3』を観終わった後。パートナーに毛布を掛けて書き置きをすると、身支度をして、中央図書館へDVDを返しに出かけた。

02/25/08(2008年2月25日)

2008年2月25日の彼

©2021 Ryoichi Satomiya

この日は日勤。パートナーと朝食を取る。
この日は会社の最寄りのバス停の近くで、無言でプラカードを持って立っている人がいない。職場の人から聞いたが、あのプラカードを持った人は僕が休みで来ていない日にもいたそうで、昨日の朝に会社の上の人たちからの命令で警察を呼んで、排除したのだという。
この日は珍しく定時で*15上がれたので、帰りに*16四つ角飯店へ行って、持ち帰り用の5のつく日の焼きギョーザを3パック買って帰る。

夜。
仕事から帰ってきたパートナーに焼き餃子があると言ったのだが、「*17毒ギョーザ事件が解決してないのに、なんで餃子買ってきたのか!!お互いの身に何かあったらどうするんですか?!」と、すごい剣幕で怒られる。このギョーザは中国製ではない。東京の立川製だ。去年の12月まで、平気でビール片手に喰っていたじゃないか・・・。
結局、パートナーは「買って来たものだから仕方がない」と理由をつけて、渋々ギョーザを食べていた。

02/26/08(2008年2月26日)
この日は休み。パートナーと朝食を取る。
午前11時過ぎ。
立川駅)北口へ行って、*18アメリカン・ギャングスター』を観るために映画館に行ったが、上映開始まで2時間もあったので、入場待ちの時間つぶしに隣のデパートへ入る。売り場の中で、梅の花の盆栽が並んでいるのを見た。
出来る事であれば、鉢の上ではなく土に根付いている梅が観たいとも思ってはいたが、今日は記念公園まで行く気は起きなかった・・・。

02/27/08(2008年2月27日)
この日は日勤。パートナーと朝食を取る。
新卒採用の人の書類選考の手伝いをしたが、相変わらず、履歴書の写真に写る若人たちは男女問わず七三分けで黒っぽいスーツ姿という同じような顔の人ばかりで、大学卒業見込みの人ばかりで、新鮮さが無い・・・。
これじゃ、*19ウォーリーを探せ」の中に描かれているウォーリーと人物たちを観ているほうがまだマシだ・・・。
午後はデスクワークで、書類選考結果の手紙をワープロソフトで作成。

02/28/08(2008年2月28日)
この日は日勤。パートナーと朝食を取る。
この日の午後。
曇っているが、昨日より暖かいような気がする。
デスクワークで、僕にとっては久しぶりの表計算ソフトを使った書類作りをする。しかし、僕の知らない内にソフトがアップグレードされていたために、知らない機能や数式がたくさん入っていたため、隣の社員に助けを求めながら作業した。

02/29/08(2008年2月29日)
この日は日勤。パートナーと朝食を取る。
この日もデスクワーク。
午前中に観た、ほかの社員たちのキーさばきのスピードと正確さに愕然とした。まるで、僕のパートナーみたいだ・・・。

昼休み中。
菓子パンを片手に、昨日近所の書店で買った表計算ソフトの参考書みたいな本を観ながら、昨日苦戦した表計算ソフトとにらめっこをしていた。
時代の流れについて行くのは大変だ・・・。

→つづく・・・。


参考資料
餃子ドットアジア「中国製冷凍ギョーザ中毒事件とは」
http://gyouza.asia/gyoza-jiken/index.html

*1:「シャルマン」という総菜屋の事を言っているのではないかと思われる。

*2:東京都中野区に本社がある、国内外で有名な古物商の1つ。取り扱いジャンルがマニアックなのが特徴。

*3:「よこおただのり」と読む。日本を代表する美術家・グラフィックデザイナー・画家。兵庫県神戸市にある横尾忠則現代美術館の建物のどこかで、毎日のように横尾本人が絵を描いているらしいという噂がある。

*4:「えびすよしかず」と読む。長崎県出身の漫画家・タレント・エッセイスト。1970年代から1980年代にかけて日本で流行した“ヘタウマ”を代表するアーティストの一人だった。

*5:平らな石(または金属板)の上に描画したまま印刷する、版画の一種。アーティストによっては、通販や美術館のミュージアムショップで購入可能。

*6:元・漫画家という経歴を持つ映画監督。代表作には、漫画・劇場アニメ『AKIRA』などがある。

*7:1982年から1987年まで、NHK教育テレビ(現・NHK Eテレ)で放送されていた伝説の若者向けトーク番組。YMO忌野清志郎などの有名人がゲスト出演していた事でも当時話題だった。1982年から1985年までのオープニングとエンディング映像に出てくるイラストは漫画家時代の大友克洋が描いていた。テーマ曲は、坂本龍一が作・編曲した。

*8:1970年代の西武・セゾングループの文化戦略の一環で、1974年から1985年まで発行されていた月刊のサブカルチャー雑誌。1970年代は『ビックラゲーション』という読者からの投稿企画を中心に構成されていたが、1980年以降は糸井重里氏による『ヘンタイよいこ新聞』という読者からの投稿企画が加わったり、YMOによる連載『黄色魔術症候群』と1980年代の著名人による寄稿が数多くあったりした影響で、1970年代から1980年代にかけて、人気コンテンツの1つとして君臨していた。

*9:民間による遺体安置場の一種。一部の葬儀社や葬祭業者が展開している、建物の見た目と通路は通常のホテルかマンションみたいだが、生きている人は利用することが出来ない施設。2000年代から続いている高齢多死化の影響で、火葬場の数が足りずに火葬をするまでに一週間待たされることも珍しくなくなっていることや、遺体の衛生面に不安が生じる「自宅安置」をやりづらいという事情の人が増えていることから、都市部を中心に登場し、その数を増やしつつあるという。ホテルによっては、身内だけのお通夜や簡単なお別れの儀式に対応してくれるところもある。

*10:1981年から1982年にかけて、アメリカのロサンゼルスで起こった銃殺・傷害事件に関して三浦和義氏にかけられた一連の疑惑のこと。この疑惑に関する、当時の日本での過熱化していた報道のやり方は、被疑者に対する人権侵害などの問題を日本のマスメディアへ投げかけるキッカケになったらしい。三浦氏は、2003年に日本で行われた裁判で「無期懲役」から一転して「無罪」が確定して自由の身になったはずが、2008年にアメリカの自治領の国・サイパンにいるところを、アメリカの警察に「共謀罪」で逮捕されてしまい、ロサンゼルスへ移送されたが、10月10日に三浦氏はロサンゼルス市警の留置施設での勾留中に亡くなった。

*11:本来は「小さい頃から遊んでいた友達」つまり「幼なじみ」を現す日本のことわざ。

*12:2003年の劇場アニメ。黒田硫黄の自転車レース漫画が原作の短編作品。ロードレース中のスペイン・アンダルシアを舞台に、主人公が解雇の危機や、かつての恋人と兄が結婚するという複雑な思いを抱きながらも、ロードレーサーのプロとして「仕事」に取り組むさまを描いたもの。俳優の大泉洋が主人公の声を演じたことや、忌野清志郎が主題歌を歌っていたことなどが当時話題だった。

*13:2007年のOVA作品。劇場アニメ『茄子 アンダルシアの夏』の続編。主人公と親友の死に悩む所属チームの相棒との信頼関係を描いたもの。前作の舞台はスペインだったが、この作品の舞台は日本・栃木県のロードレース。

*14:2003年の映画。水野晴郎の脚本・主演・監督作品『シベリア超特急』の第3弾。映画『シベリア超特急』シリーズ史上、主人公の山下陸軍大将の出番が少ない作品と言われている。大富豪・宮城が主催する瀬戸内海での船上パーティーで、参加者が失踪するという事件が起こることから物語が始まる。

*15:日本で「仕事を終わる」と言う意味で使われる表現。職場内で、上司が部下に向けて使われることが多いという。

*16:かつて、立川駅北口付近の「立川銀座商店街」の角にあった、「四つ角飯店」という街中華のこと。毎月5のつく日には自家製焼きギョーザ半額、毎週水曜日は自家製水ギョーザ半額というイベントが名物だった。立川駅北口再開発のために2013年1月末で閉店したが、2014年10月に立川駅北口付近のほか場所へ移転・再オープンしている。

*17:「中国製冷凍ギョーザ中毒事件(別称「毒ギョーザ事件」)」のこと。2007年12月から2008年1月にかけて、中国製の家庭向け冷凍ギョーザに農薬が混入されたままの状態で、中国から日本へ輸出・販売されてしまい、このギョーザを食べた3家族10人の人が食中毒に見舞われた。この事件の影響は、2010年3月に中国で容疑者が捕まるまで続いたらしい。

*18:2008年2月に、日本で公開されたアメリカ映画の1つ。デンゼル・ワシントンラッセル・クロウによる、ニューヨークの麻薬王とそれを追い込む刑事を描いた実録サスペンス。

*19:1987年にイギリスで出版された、イギリスのマーティン・ハンドフォード氏による絵本シリーズ。人が入り乱れた絵の中からウォーリーや仲間たちなどを見つけ出すというもの。1987年から日本でも発売されていて、現在もロングセラーの絵本の1つになっている。

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