洋梨とバックロールエントリー

敏宮凌一(旧ペンネーム・敏宮龍一)によるブログ。

『ある山下テツローの場合』→第32.5話

第32.5話:From SAT/テツローと(私にとっては涙とトラウマだらけの)新宿・その2・・・の補足

2008年8月某日。
JR代々木駅でテツローと待ち合わせて、そのときはランチタイムで、金魚だらけの喫茶店の隣にある小さな洋食店で昼食を取った。
・・・のだが、山下テツローとのランチが終わった後のことについて、現存している記録を基にもう少々細かく書こうと思う。
1つは、テツローに言われたある発言の事。そしてもう1つは、ランチを食べ終わった後に取った(私にとっては)彼の異様な行動の事。

まず1つめは、当時のテツローに「くれぐれも、僕が言うお葬式関係の事を書く時は、絶対にお涙ちょうだいにならないようにしてくださいね。昔から、僕の先輩社員の人から“葬祭業者は、人の感情を揺さぶるようなことを言っていけない”と言われてきたもので・・・。葬祭業者の中には、参列者に対して、わざと涙を誘うような話し方をする人がいるんです。そもそも、葬儀屋は語り部でも役者でもありませんし、主人公は亡くなった人とご遺族のほうですから・・・。」と、取材の際に念を押すように何度も言われたことを今も覚えている(あまりにも言われたため、今後ブログに載せる際には割愛する予定である・・・。)。
この時のテツローは、私に対して、自分の事や葬儀社時代の事を、現代で言うところの「感動ポルノ」にはするなと意味で言っていたのだろうと思われる・・・。

お涙禁止お涙02

©2021 Ryoichi Satomiya

ちなみに「感動ポルノ(Inspiration porn)」とは、 2012年に、オーストラリアのコメディアン・障害者人権活動家のステラ・ヤング氏が、オーストラリア放送協会ウェブマガジン『Ramp Up』の中で初めて用いた造語である。
ヤング氏曰く、「この言葉は、障害者が障害を持っているということを含みにして、“感動をもらった、励まされた”と言われる場面を表している。そこでは、障害を負った経緯やその負担、障害者本人の思いではなく、積極的・前向きに努力する(=障害があってもそれに耐えて・負けずに頑張る)姿がクローズアップされがちである。“清く正しい障害者”が懸命に何かを達成しようとする場面をメディアで取り上げることが、“感動ポルノ(意図を持った感動場面で感情をあおる行為。)”。また、紹介されるのは常に身体障害者であり、精神障害者発達障害者が登場することはほとんどない。」と、2012年当時に発言していた。これ以降、2015年にアメリカの*1『TEDトーク』でも発言していて、2016年ごろに『バリバラ』というNHK Eテレの番組でも取り上げられたのがキッカケで、“感動ポルノ”という言葉が日本にも知られるようになって、『24時間テレビ』などを含む障害者のドキュメンタリーを企画・製作する民放テレビ局に異議を唱える特番がNHK Eテレで企画・製作され、2016年8月28日に日本テレビ系列の『24時間テレビ』放送中の裏で、様々な障害者と同志の著名人を起用した『24時間テレビ』を批判する番組が放送された。
以降、この番組は様々な社会問題やLGBTQの問題などについて取り上げる特番として、毎年『24時間テレビ』の放送日の裏で製作・放送され続けているという。
ちなみに2021年の番組は、日本で起こっているSDGsエスディージーズ)問題について、問題の当事者たちと同志の著名人と障害者たちが2時間40分語り合う生放送番組だった・・・。

次は、テツローが取材の時に取ったある行動について。
その行動というのは、テツローがリュックサックから出した巾着袋を開けて、処方薬と思われる物を数種類ほど取り出すと、店のテーブルに備え付けられていた紙ナフキンを1枚取って広げて、その上に錠剤やカプセルらしき物を包装から押し出し続けているというものだった。
テツローが作業を終えると、紙ナフキンの上には、錠剤やカプセルの小さい山が出来ていた・・・。
テツローは給仕のスタッフにお冷の継ぎ足しを頼む。お冷の継ぎ足しが済むと、先ほどの紙ナフキンを手に取り、まるでフォアグラの製造に“貢献”させられているガチョウの如く、上を向いて紙ナフキンを口の上に傾けると、錠剤の山を喉に流し込む。テツローは顔を正面に戻すと、苦悶の表情を浮かべながら、テツローはお冷を全て喉に流し込んだ。サプリメント“山”とお冷を飲み終えた後のテツローは、まるで苦行を終えた行者のようだった・・・。

そこに山がある

©2021 Ryoichi Satomiya

あまりにも気になった私は、思わずテツローに尋ねた。
私「何ですか。それ・・・。」
テツロー「サプリメント。これだから、年を取るって嫌・・・。」
私の質問に答えながらも、彼は息絶え絶えだった・・・。

この、テツローが“サプリメント”を飲むという光景を、私はこの時以外にも何度か見かけた。だが、この時の私は、テツローが飲む“サプリメント”の正体をまだ知らない。
彼が飲んでいた“サプリメント”の正体は、2008年10月にもらうことになるテツローのパートナーからの一通(?)のショートメールと、後にテツローの遺品のUSBフラッシュメモリに記録されているファイルの内容を見て知ることになるのである・・・。

→今度こそ、第33話へつづく・・・。

*1:2006年からある、アメリカ合衆国ニューヨーク市に本部がある非営利団体・TED(Technology Entertainment Design)による、ネットを通じて行なわれている動画の無料配信プロジェクト。カナダのバンクーバーで毎年開催する大規模な講演会「TED Conference(テッド・カンファレンス)」や「TED talks(テッド・トークス)」の模様を視聴できる。これまで視聴できる内容は英語だけだったが、近年は日本語にしたバージョンも公開しているという。

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